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28 1月 14

BFDシリーズ産みの親・開発者インタビュー



ソフトウェア音源の世界で「不動の地位」をキープし続けることは非常に難しい。世界中から新しい製品がリリースされている中で、群雄割拠ともいえるドラム音源の世界ではなおさらだ。

2003年にリリースされたFXPansionのドラム音源BFDは、当時世界中のクリエーターを驚かせた。今ではあたりまえとなったオンマイクとアンビエントマイクをミックスして作り上げる構造を当初から採用、わずか数メガ~数10メガのライブラリが主流だった時代に、一気にギガバイトクラスのライブラリを持って登場、そして何より、そのサウンドクオリティ。BFDの登場は、まさしくドラム音源の「改革」が起きた瞬間だった。


その後もFXPansionはBFDシリーズをブラッシュアップし続け、最初のBFDが生まれてからちょうど10年となる2013年秋、BFD3が満を持して登場。BFDは今でもドラム音源のトップとして君臨し続けている。

ミスターBFDこと、Skot氏(弊社オフィスにて)

BFDシリーズの開発リーダーが、FXPansionのSkot McDonald氏だ。天才的なプログラマーであり、同時に心から音楽を愛している人で、BFDシリーズの全てを知り尽くす、まさに「Mr.BFD」である。

BFD3が世界中のユーザーに渡りはじめた2013年11月。Skot氏は私たちのオフィスを訪れ、BFDが生まれるきっかけから、BFD3の開発背景などを語ってくれた。


初代BFDが生まれたきっかけ

メディア・インテグレーション:SkotさんがFXPansionに入社されたのはいつ頃の事だったのですか?

Skot(以下S):私が入社したのは2002年の終わり頃、12月頃の事です。FXPansionに入社するためにニューヨークからロンドンに引っ越したんですよ。

当時FXPansionにはどれくらいのスタッフがいたのですか?

S:CEOであるAngusと、COO/CFOであるRhiannonの2人だけです。当時はまだオフィスを開いたばかりで、私の面接もオフィスではなく、パブで。オフィスは塗装すら終わっていませんでしたから(笑)

Skotさんが2002年に入社、最初のBFDであるBFD1が2003年にリリースされたという事は、入社してすぐにBFD1の開発に着手されたという事でしょうか?

S:契約して最初に手がけたのは別のプロジェクトでしたが、すぐにBFD1の開発が始まりました。

BFDの登場は世界中のクリエイターを驚かせる革新的なソフトウェアだったと思います。どうしてこのようなソフトウェアを作ろうと思ったのですか?

S:ナイン・インチ・ネイルズとの仕事でも有名なスティーブ・デューダ(Steve Duda)というサウンドデザイナーがいるのですが、彼があるドラムキットのサウンドをマルチ・マイクでレコーディングして、そのサウンドをNI Kontaktでプログラミングしようと思っていたものの、思うように動かなかったそうなんですね。複数のKontaktを一気に起動しても追いつかなかったそうです。

当時としては膨大なサンプル量だったのかもしれませんね。

S:その頃のFXPansionにはDR-008というソフトウェアがあって、これはビンテージ系のリズムボックス音源だったのですが、スティーブはCEOのAngusに「DR-008を使って、僕がレコーディングしたサンプルを使うことはできないかな?」と相談を持ちかけたらしいんですね。ところがAngusはその頃VST-AU Adapterの仕事にかかりっきりだったので、その話が私のところに回ってきたんです。「Skotならドラムにも詳しいし、プログラミングも得意だから」と。

Skotさんのプログラマーとしてのバックボーンは?

S:私はニューヨーク時代にディスクストリーミングに関するアルゴリズムの開発をしていました。大学のころにはドラムの人工知能(AI)制御の研究や、コンピュータを使ったインダストリアル・ミュージックの解析を専門にしていたので、スティーブ・デュータがナイン・インチ・ネイルスの仕事をしている人だと知って非常にエキサイトしましね。

開発に着手し始めたとき、ビジネスとしては「2年間で500本も売れればいいだろう」と考えていたのですが、蓋を開けてみれば一ヶ月で500本を達成し、その後も毎月500本以上のセールスを達成していたわけです。想像以上の反響でした。世界中のユーザーのおかげで、たった3人しかいなかった私たちのオフィスは、半年の間で12人も増員したんです。クレイジーですよね(笑)

私たちも国内での発売当初、非常に忙しかったのを思い出します。

S:日本のユーザーのみなさまにも感謝しています。ちなみに、最初にスティーブが持ち込んだドラムのサンプルは、BFD1に収録されています。このキットが、全ての始まりですね。


イギリス人と日本人の似ているところ?!

BFD1のリリース当時、私たちが取り扱っていたPerfectioneerという、同じくイギリスのブランドがあって、AKAIフォーマットのドラム音源などをリリースしていたのですが、彼らの製品もまたダイレクトマイクとアンビエントマイクの音を個別に調整できる、というコンセプトの製品でした。BFD1がリリースされた当時、「イギリスにはこういう風土があるのかな?」と思った事を思い出したのですが、実際のところはどうなのでしょう?

S:うーん、どうでしょう。スティーブはアメリカ人だし…。私もイギリス人ではありませんから、イギリス特有の事を語ることはできませんが、移住して気がついた事としては、イギリスに特有の「Boffin」なところは関係しているかもしれませんね。

Boffin?とはどういう意味ですか?

S:音楽やオーディオに限ったことではないのですが、テクノロジーに対して研究熱心で、ちょっと秘密主義なところといえばいいかな。日本ではこういう言葉はなんていうんだろう…?

日本には「オタク」という言葉があって、それに近いかもしれませんね。

S:そうそう!そういう感じ。そういう気質が根付いている部分はあるかもしれませんね。音の細かいところまでコントロールしたいという気質があるのかな。アメリカ人はコンセプトや創造に重きを置きますが、イギリス人はBoffin的にノブを動かすのが好きなんです。


数多くのケンカが、快適なBFD3を生んだ?!

BFDシリーズの基本構造。反応が大事なアタック部分はRAM(メモリ)に読み込み、後ろの部分をHDDやSSDからのストリーミングで繋ぐ。

BFD1の登場時にもっとも衝撃的だったのは、サウンドのアタック部分だけをメモリに読み込み、残りの部分をHDDからストリーミングで再生するというエンジンでした。当時のコンピュータは搭載できるメモリもまだまだ少なかったにも関わらず、これによってギガバイト単位のクオリティでドラムサウンドを作ることができるようになったと思うのですが、この構造を思いついたのはどういったいきさつがあったのでしょう?

S:ソフトウェア音源でこの技術を応用したものは少なかった、あるいはなかったかもしれませんが、実はこの技術はコンピュータが限られたメモリしか使えなかった60年代からある技術の延長ともいえるんです。知っている人からすると、特に目新しい技術ではないんですね。事実、UNIXには搭載されている技術だったのです。コンピュータがデータを扱う際には、少なからず似たような処理を行っているものなんですよ。

では、BFDシリーズが2、3とアップグレードしていくに連れてこの技術は変わっていないと言えるのですか?

S:いえ、着実に進化をさせています。BFD3のユニークポイントとしては、単にHDDからのストリーミングをするだけでなく、コンピュータがコントロールを失うことなく、いかにメモリから高速にデータを読み出すかという点を進化させています。ユーザーにより気持ちよくBFDを使ってもらいたいという意味を込めて、この部分を大幅に改善しました。BFD1はもとより、BFD2と比較しても超高速な処理ができるようになっています。主には、メモリ上にあるデータを超高速に処理できるようにプログラムしています。

具体的な数字で言い換えると、BFD1のプログラムは5000行のコードでできていました。これがBFD2になったときには30万、そしてBFD3は100万行ものコードになりました。私からすれば、コード地獄ですね(笑)

プログラミングに詳しくない私からすると、コードが増えるほどコンピュータの負荷が増えそうな印象があるのですが…

S:いえ、先ほどもお話した通り、全てはユーザーにより快適にBFDを使ってもらうためのプログラムになっているので、より軽快に使ってもらえると思います。それこそ、ハードディスクをマシンから引っこ抜いて直接スピーカーに投げつけるくらいのスピード感を目指していますからね(笑)冗談はさておき、BFD3のコードは100万行を超えますが、コアとなるコードは、僅かに1000行ほどなのです。ここをいかにプログラムするかで、ユーザーの快適度が変わってきます。

たしかに、BFD2からBFD3になって、明らかに動作が軽くなったという印象を受けました。

S:BFD3を快適に使ってもらいたいという一心で私たちFXPansionスタッフは何百回にもわたるミーティングをし、衝突し、胃を痛めて、ケンカもして…

…あ、これは言い方が悪いかな(笑)言い直させてください。

FXPansionスタッフは、みんな音楽が大好きで、情熱をもっています。それぞれの得意分野があって、方向性はさまざま。プログラムだけではなく、グラフィックや挙動にも多くのミーティングを繰り返しました。一度ミーティングで決まった事も、改めて時間が経ってから見てみると「やっぱりこの機能はここに配置したほうがいい」と客観的な意見が出てきたりして、しかもそれが正しかったりもする。過去のミーティングで決まったからといって、頭を固くしておかないようにしましたね。

BFD3は最初の形が出来上がってから、およそ2年をかけてベータテスターの方からのフィードバックを募りました。そこで出た意見をもとに幾度となくインターフェイスの改良もしました。「ここがイケてないね」という要素を限りなく排除して、ユーザーが使いやすいと思ってくれる部分を追求しましたからね。

ユーザーが快適に使ってくれる事はもちろん最優先ですが、FXPansionのみなさんもケンカしないで欲しいなぁ、というのが、私たちの願いですけどね(笑)

S:そうですね。でも「ここだけは不便をかけるけども」みたいな要素はなくしたかったのです。…たとえ社内で友人を失うことになってもね(笑)ご心配なく、みんな仲がいいですよ。私たちは製品の開発に情熱を注いでいます。不完全のままでリリースしたくはないのです。とてつもないアイディアがあったとして、寝る間を惜しんで作業をしなくてはならないとしても、スタッフ全員がその時間を惜しまないのです。

BFD2からBFD3のリリースまでは約5年の月日がありましたが、その間はそのような作業があったということなのですね。


軽くなったBFD3、追加された新機能

S:実をいうとBFD3は、今から8ヶ月ほど前に「完成」していました。ところがCEOのAngusが突然「すごくいいインターフェイスのアイディアを思いついた!」とミーティングで話したのをきっかけに、他のスタッフも「実は僕も…」なんて手を挙げはじめて(笑)

BFD3の動作がBFD2に比べて軽快に感じるのは、グラフィックのアニメーションをよりシンプルにした事も理由のひとつです。BFD3はBFD2に比べても1.5倍のデータをストリーミングしていますし、さらにリアルタイムでロスレスファイルをデコードしながら再生しています。

BFD2の時よりも多くの処理をしているにも関わらず、動作は軽快になっているということですね。

S:少し技術的な話になりますが、BFD3は近年のコンピュータであたりまえになっている複数のCPUを搭載したマルチスレッティング・プロセスに最適化しています。そればかりでなく、新しい技術として独自のロスレス・コンプレッションを搭載しました。これによってBFD2までの時代と比べて1.5倍ものデータを使用しているにもかかわらず、HDDの負荷を半分以下に抑える事ができたのです。

ロスレスという事は音質的にも失われるものがないファイル、という事ですね。

S:そうです。この技術によって従来のBFD2に比べてロード時間が3倍速くなったとも言えます。FXPansionが新たに開発した技術です。とはいえ、このような技術をユーザーのみなさんが気にする必要はなく、より快適に使用できるようになったと思ってくれればと思います。ストレスのない音楽制作に役立ててもらえれば何よりも嬉しいですからね。

シンバル・スウェルとは:シンバルを連打したときや、ロール奏法をなどを行ったときに自然なつながりが得られる新機能。これにより従来のドラム音源で「いかにも打ち込みのような」不自然さを排除し、リアルなシンバルを再現できる機能。

BFD3は軽快なエンジンも魅力ですが、新たに追加された機能も魅力です。シンバル・スウェル機能やタム・レゾナンス機能が主な追加機能だとおもうのですが、それぞれどういった背景から生まれたものか、教えていただけますか?まずはシンバル・スウェルから。

S:シンバル・スウェルは、実はかねてから搭載しようと考えていた機能でした。ジャズなどでライド・シンバルをレガート奏法を音源で再現しようとすると、どうしてもサンプルを連打しただけの「嘘くささ」が目立ってしまう。なぜならシンバルって、本体そのものが「揺れる」からです。揺れているものを叩いているので、アタックのずれ、そのときのエネルギー、時間軸上のディケイ(減衰)とか、そういったものを表現しなくては本来の深みを出せないと感じていました。

こういった機能をレコーディングしたサンプルで表現するには限界があるので、BFD3のエンジンでは初めてモデリングで再現できるようにしたのです。これらのリサーチには時間もかかりましたが、非常に楽しいものでした。最高の状態でレコーディングされたサンプルと、モデリングによるデュアルエンジン。シンバルを連打したときにアタックが変化する効果を試してみてください。

タム・レゾナンスとは:キックやスネアを叩いた時に起こるタム本体の共振をオン・オフできる機能。オンにした場合には、キックやスネアを叩いたときにタムのオンマイクフェーダーに共振音が付加される。

タム・レゾナンスについては?

S:これは…すごく頭を悩ませた部分です。ドラム本体の鳴りを考えたときに、タムというパーツは明らかにもの凄く共鳴をしています。タムに立てたマイクは、もちろんその共鳴を捉えているわけですね。

ドラムそのものを再現しようとすると、このタムの共鳴を無視するわけにはいかないのですが、多くのミキシンエンジニアは、膨大な時間をつかって「いかにタムの余分な残響を排除するか」という作業をしているのです。もちろん、反対にその共振がほしいという声があるのは分かっていました。

ミュージシャンとエンジニアの視点の違いかもしれませんね。

S:そうですね。他のメーカーではサンプルでこの現象を再現しているとこともあります

とあるドラムキットのマルチサンプルをレコーディングしようとしたときに、スネアを叩けばそれぞれのタムに立てたマイクにスネアの音がカブリますし、タムの「共振」も入ってくるはずです。ところがここでスネアを変えたとすると、スネアによって生まれたはずのタムの共振は変わってくるはずですよね

スネアとタムによって生まれる「ドラムキットの一体感」といったところでしょうか。

S:そうです。サンプルでこれを再現しようとすると「スネアを変えたのに、タムの共振は変わらない」という不思議な状況になってしまうのです。もっというと、マイクの違いもあるはずです。BFD3はそういった矛盾が起こらないように、スネアやキックを変えたときにも本来の共振が得られるよう、モデリングエンジンを採用しました。キックやスネアを入れ替えてもタムの共振がマッチするように、統一感のあるサウンドをを得られるようにしたのです。もちろん、このサウンドがミックス上で不要であれば、オフにすることもできますからね。

モデリングのエンジンも採用しているということは、これまでのライブラリ(BFD2、その他拡張音源)でもその恩恵が受けられるということですね。

S:はい。実はこのタムレゾナンスやシンバルスウェルのアルゴリズムは、ロンドン大学の博士課程の学生たちによる半年ものリサーチを基にして作ったものなんです。FXPansionはロンドン大学と密接な協力関係があって、ドラムに特化した研究の一部を共有しているんですね。彼らのアイディアもまた素晴らしいものが多く…

MI注:この後、おそらくは非公開の情報を含む内容だったため割愛をさせて頂く。ロンドン大学とスコットさんのアイディアは、私たちの想像を遥かに超える強烈なものであった。私たちの興奮とともに、いつかアップデートで搭載してほしい、というリクエストを伝えた。


オススメの設定や、隠し機能はありますか?

S:タムレゾナンス機能をリサーチしている時に見つけた副産物のようなもので、特に隠しているわけでもないのですが……きっとほとんどの方が気がついていないかもしれない機能をひとつ。

タムというのはアタックの瞬間からサウンドが減衰するまでの間にピッチが変わります。レゾナンス(共振)をモデリングで実装するために、タムのピッチが安定するまでのピッチカーブを特定する必要がありました。ピッチが安定すると、レゾナンスが発生するからですね。私たちはここに時間を掛けて、全てのタムのアタックからリリースまでのピッチがどう変化するか、どこで安定するかを調べ上げたのです。

5年以上もの開発期間をさらに裏付ける逸話ですね。

S:BFD3でタムを選択して、Techパネル(画面右側)を見てもらうと”Tuning” というセクションがあります。ここに「KEY」という表示があって、タムのピッチが表示されています。

このセクション右側に「Learn」というボタンがありますが、このボタンを押してから特定のMIDIノートを送信すると、タムをそのノートに合わせることができるのです。将来的には楽曲のキーに合わせてリアルタイムにチューニングを変化させたりなんて事も…できるかもしれません。

これは面白い!まだデモンストレーションなどでもご紹介していませんでした。

S:多くのユーザーは「なんでそんな機能まで?」と疑問に思うかもしれませんが、「今までできなかった事ができるようになる」というところがクールじゃないですか?もともとこの機能は、BFD2のレコーディングを行っていたときに、エンジニアが「コード入力でタムチューニングできたら良いのにな」とふと発したところから得たアイディアなんです。

もしもこの機能を使って下さるのであれば、ひとつだけ注意を!これはジョン・エムリッチに教えてもらったエンジニアならではのテクニックですが、タムのチューニングは曲のキーから僅かに外しておいたほうが良いんだそうです。

完全に合わせるよりも、合わせてから少しだけ手動でずらす、という事ですか?

S:そうです。完全に一緒のままだと、ギターや他の楽器と混ざった時にその帯域が共振してしまうんですね。

BFDには機械のような連打を解消する「アンチ・マシンガン・モード」や人間味を加える「ヒューマナイズ機能」がありますが、「完璧」から少しだけずれている事は、音楽にとっても大事ですね。遠いところ日本まで来て頂き、ありがとうございました。

S:ありがとうございます。日本でも多くの方にBFD3を使ってもらえたら何よりです。


知的でクール、聡明なプログラマーという印象のSkot氏だが、このインタビュー収録が終わったあとの会食では、いかに音楽も好きか、またいかにドラムそのものも大好きなのかを熱く語ってくれた。こういう開発リーダーだからこそ、世界中のユーザーを魅了するソフトウェアを作り上げることも出来たのだろう。

常に進化を続け、ユーザーからの声を聞き漏らさない開発体制(事実、このインタビュー中に私たちがリクエストした「ほんの小さな」改良を、その後のマイナーアップデートに含めてくれた)。もしもみなさまが、長くつきあえるドラム音源を探されているようならば、ぜひともBFD3をチェックしてほしい。

>BFD3製品詳細ページ


13 3月 13

Spectrasonicsユーザーストーリー:スティーブ・ヴァイ


本記事はSpectrasonicsウェブサイトのコンテンツを日本語化したものです。

元記事リンク(Spectrasonicsウェブサイトへのリンク)


スティーブ・ヴァイといえば、優れたコンポーザー/プロデューサーとしての活躍もさることながら、あらゆるプレーヤーから賞賛をうける真の「ギターの神」だ。フランク・ザッパのもとで不可能とも言われた演奏をこなし、デイヴィット・リー・ロスやホワイトスネイクとの活動ではチャートを席巻。そして優れた才能をもつミュージシャンを引き連れ、数えきれないほどのソロ・プロジェクトを手がけてきた。数百万枚にもおよぶアルバムセールス、そしてグラミー賞も3回獲得している。近年では作曲家として、エレクトリックギターと交響楽団のための作品を制作し、その手腕を振るった。優れたミュージシャンシップを体現し、自分自身にもリスナーにも挑戦し続けている。そしてスティーブは、Spectrasonicsのサウンド/インストゥルメントを創設初期から使用するユーザーでもある。

純粋なる想像力

ヴァイは早速ミュージシャンへのアドバイスを語ってくれた。

「想像力を自由に張り巡らすこと。ありきたりに聞こえるかもしれないけど、これは真剣に受け取ってほしい。そうすることで、現実の感覚ではとらえることのできない、真にクリエイティブなものを生み出せるからなんだ。例えば『この楽器がこう反応してくれれば、きっとこんな事ができるのに』とか…何でもいいんだけど、まだこの世界に存在していないもの。ないこと自体はそれほど重要じゃない、大切なのは想像力は無限なんだという事だ。じゃなきゃ実現する事もできない。想像力を暴走寸前まで巡らせなければ始まらない。大きな想像力にこだわることで、あらゆる宇宙的な力を引き出し、自分のものとしてこの世界に作り出すことができる。人が生み出した全ては『アイデア』から始まっているという事だよ。アイデアを頭に刻みつけ、強い思いを持って実現までの道のりを楽しむということだ。

バーチャルとライブ

ヴァイは自身のサウンドが紡ぎだす音風景に、Omnisphereのサウンドを巧みに織り込んでいる。そこにあるストーリーや意味を高め、リスナーを引き込んでいく。

Omnisphereは主にテクスチャーやアンビエンスなどの音響効果に近い役割に徹している。さらに、一流のベースプレイヤーがチームに参加している一方で、近年のトラックではTrilianがベースパートに使われる事もあるという。

「最近のアルバムなら、どの曲でも必ずSpectrasonicsのサウンドを聞く事ができるはずだ」

ボーカルサウンドも、彼の壮大な作品には欠かせない重要な役割を担っている。新作「The Story of Light」に収録された”Weeping China Doll” がいい例だろう。

「よくあるサンプル・ボイスは、必ずしも最適な環境でレコーディングされたものとは思えない。Omnisphereのボイスサウンドは、どれも統一感があって、しかも他では見つけられないようなバラエティに富んでいる。Gospel ChiorsやBoys Choirsが特にお気に入りだね」

他にも彼が重宝しているという、検索エンジンなどのOmnisphereの構造やインフラストラクチャーについても、

「とにかく選択肢が豊富だ。豊富すぎて音探しに何時間も没頭してしまうほどね!(笑)でも、欲しいサウンドがイメージできているなら、探すのは簡単さ。奏法で絞り込むことができるからね。ムニャムニャ(Babbling)とかドゥーワップ(Doo wop)なんかの変なものから、スフォルツァンド(Sfz)なんて細かい指定までできる。カテゴリー分けも素晴らしいね。カテゴリーで選んで、そこから検索で絞り込んでいく…ボーカルならタイプや性別、クラシカルや女性/少年とこまかく選べるしね」


すべての始まり

音楽への強いひらめきがスティーブに訪れたのは、まだ彼が幼かった頃だという。

「4歳くらいだったと思う。ピアノに向かって鍵盤を叩いたんだ。耳に届くもの全てを感じられるようだったし、音楽的な次元で音を『目で見る』ことすらできた。とても自然なことに感じられたんだ。音楽をそんな風に感じるのはミュージシャンだけだと気づいたのは、それからずいぶん経ってからさ」

スティーブ・ヴァイといえば、華々しい超絶技巧のロック・ギターで知られている。その事もあって、彼が長らく情熱を注いできたオーケストラ音楽作品は驚きを持って迎えられたかもしれない。

「ギターを弾き始める前から、作曲を学んでいた。最初のオーケストラ楽曲を書き上げたのは高校生の頃さ。そこからずっと続いている。僕のロック作品にも、もちろんオーケストラの作曲手法や影響を取り入れてきた。でも、心のどこかで良からぬ楽しみだなとも感じていたんだ。

リリースまでに7年という、あまりにも長い期間を要した理由の1つが、2時間以上にわたるオーケストラ作品を、オランダのメトロポール・オーケストラのために彼自身が作曲、レコーディングをしていたから、ということにある。さらに規模の大きい楽曲制作の依頼は、定期的にやってくるという。

「先日、ストラヴィンスキー・フェスティバルのための楽曲制作に招待されたよ。とてもエキサイティングなことなんだけど、こうした制作には途方もない時間がかかるんだ。僕にとって交響曲の作曲とは、自分で譜面を書き、オーケストラの構造も何もかも、すべて自分で考えるということなんだ。『Expanding the Universe』の制作には、一日15時間、5ヶ月を費やした。膨大な作業の集大成さ。でも僕にとってこれが本当にやりたいことなんだよ」

完璧なサウンド

それぞれの作品でOmnisphereを使用するにあたり、彼はサウンドのエンベロープを念入りに調整したという。自由に、かつ繊細にサウンドを磨き、理想的な状態で楽曲に溶け込むように。そしてサウンドそのものの使い方にも注意しているそうだ。

「そのサウンド次第で自分自身が現代的にも、懐古的にもなれる。だからメロディーやコード、ひいてはトラックの持つ意味や雰囲気など、全体をサポートするような、クリエイティブな使い方を心がけているよ」

「僕はエリック・パーシング(Spectrasonics クリエイティブ・ディレクター)の大ファンなんだ。自分が求める優れたクオリティの作品を提供してくれるからこそ、そのアーティストを追い求めたくなる。僕はエリックがリリースする全てのライブラリやプラグインを持っているよ。すごい作品だと思っているからね。Distorted Realityのサウンドを再加工してOmnisphereに収録したのも、とてもスマートだと思った。僕は未だにDistorted Realityの、今ではクラシックなあのサウンドを使い続けているからね。

前へ

最後にもう1つ。将来について。

「Spectrasonicsがどう進化していくのか、これからも期待している。そしてサウンド・デザイナー達の思い描くサウンドが、現実世界に縛られないものであってほしいと願っている。それこそが世界になかったものを生み出す力になるんだ」


スティーブ・ヴァイ オフィシャル・ウェブサイト

Les Paul Tech Award受賞時のキャリア・トリビュート映像がこちら

製品リンク

Omnisphere

Trilian

Distorted Reality


20 7月 12

Waves NLS 〜デジタルにアナログ特有の歪みを〜


伝説のコンソールをシミュレート

*本稿はProceed Magazineに掲載された記事を再掲載しています。

デジタルレコーディング環境に物足りないとされる「何か」を補完する製品は、市場に数多く存在する。ビンテージのコンプやEQを通したような質感と効果が得られるもの。テープを通した時の味わいを付加してくれるもの。特定の機器を精密にモデリングしたもの。近年リリースされている製品はいずれも素晴らしく、まさにデジタル環境に足りない「何か」を補ってくれるものばかりだ。

プラグインエフェクトのトップに君臨し続けるWavesが先日リリースしたNLS(Non Linear Summer)は、そういったカテゴリの中でも大注目の製品だ。

NLSは伝説に残る3台のコンソールを、その所有者でもあるトップエンジニア3名とタッグを組んで開発された、究極のコンソール・プラグイン。ビョークやマドンナを手がけるMark ´Spike´ Stent氏が所有する SSL 4000G、Pink Floydの名盤「狂気」をレコーディングしたときに使われたMike Hedges氏所有の EMI TG12345 Mk.IV。そしてブライアン・アダムズやペットショップボーイズを手がけるYoad Nevo氏所有のNeveがそれぞれ再現されている。
各コンソールのヘッドアンプによる「歪み」を精密に再現するこのプラグイン。「トラックに歪みを」というキーワードで思い出したのが、ロックオンのリファレンススタジオにて2009年3月に開催された松田直氏によるミキシングセミナーだ。

このセミナーで松田氏は、レコーディングやミックスにおける「歪み」の重要性について何度も触れ、デジタル環境でアナログ特有の歪みを得るために、複数のプラグインやお気に入りのハードウェアを用いて歪みを得ていると語っていた。Waves Mercuryを使用してほとんどのミックスを行っているという松田氏に、リリースされたばかりのNLSをテストしてもらい、印象を聞いてみた。

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05 9月 11

開拓者でありつづけるミュージシャン、ハービー・ハンコックが使うツール


スタッフHです。

前回ポストのエリック・パーシングさんのインタビュー、楽しんでいただけましたか?非常にたくさんの方にお読み頂いているようで、嬉しい限りです。

エリック・パーシングさんは世界中のサウンドデザイナーからだけではなく、数多くのミュージシャンからも厚い信望を得ており、NAMM SHOWでは彼が立つステージには常に超ビッグミュージシャンがいるんですね。一般の人に混じって。そういったビッグミュージシャンにとっては、エリックさんが開発するインストゥルメントが楽しみで仕方ないようです。

本日ご紹介するのは、そんなビッグミュージシャンの一人。常に進化し続け、多くのファン、フォロワーのいるハービー・ハンコック氏。「ジャンルを超えた活動」とは、彼のためにあるような言葉ではないでしょうか。

ハービー・ハンコック氏は古くからのSpectrasonics製品のユーザー。以下は、Spectrasonicsウェブサイトで公開されているインタビューを翻訳したものです。

第一線のミュージシャンは、どのようにインストゥルメントを使うのか。非常に興味があります。

案外私たちと変わらない使い方をしていたりしたら…もっと精進しないといけませんね。では、レッツゴー。


近年のミュージックシーンを象徴する、ハービー・ハンコック。
彼は音楽の限界やジャンルなどという枠組を超えて、常に名声を保ち続けているアーティストである。


簡単に説明するならば、アコースティックやエレクトロニックジャズやR&Bと、ジャンルを超えて多大な影響を与えた数少ない人物だ。

また彼は他者に先駆け、ソフトウェアシンセなどの最新技術やコラボレーションに取り組んできた。私たちSpectrasonics社一同は、彼が長年にわたるSpectrasonicsのユーザーであることを、大変嬉しくかつ誇りに思う。


Discovering Spectrasonics

ハービーがOmnisphereを始めて触れた時、彼はこう感想を述べてくれた。

「何時間かけてでもいじっていたいほどのサウンドだ。時間を忘れるほど、のめり込んだよ。その楽しさを誰かと共有しようと思って、マーカス・ミラーに来てもらって、事前に温めておいたアイデアをジャムしたよ。あの夜は本当に楽しかった!」

「初めてStylus RMXを使った時のことも覚えているよ。あのグルーブにはただただ、感心させられた。Chaosやミックス等の中身の部分に慣れてさえしまえば、本当にできることが多いんだ。他にも、特にTime Designerとの連携など素晴らしい機能をたくさん積んでるしね」

サンプル・ライブラリなど、Spectrasonicsの旧製品も彼のアレンジでフィーチャーされている。

Vocal Planetなんかもよく使ってるよ。様々な文化圏の歌い手を自分のものにできるからね。数年前だけど、サラウンドのライブでVocal Planetを使った。現代的なバックグラウンド・ボーカル、ジャズのスキャット、トゥバの歌い手、ヒマラヤの女性ボーカル、こうしたサンプルをゴスペル・サウンドとのハーモニーを意識して使ってみたんだ」

Imagining the Possibilities

彼が手がけたアルバム、”Possibilities” の制作については、

「スティービー・ワンダーのカバーで、グルーブにStylus RMX、ベースにTrilianを使ったよ。このアルバムのドキュメンタリーの撮影では、Greg Phillinganesと僕がVocal PlanetとStylus RMXを使ってファンキーなグルーブを作ったりもしたね。そんな素晴らしい音楽が生まれる瞬間が、このプロジェクトのドキュメンタリーにおさめられているよ」

グラミー賞を受賞し、世界的にも大きな影響を及ぼした”Imagine Project”。このアルバムには特にOmnisphereとTrilianが使用されている。

「アルバムのある曲では、マーカス・ミラーがベースを担当している。でもレコーディングの後、彼のベースラインよりいいアイデアが浮かんだから、ベースラインを変えようと思って僕がTrilianを使ってキーボードで演奏したんだ。ちなみに、Trilianのベースサンプルのいくつかは誰の演奏か知ってるかい?

マーカス・ミラー本人だよ! 彼自身の演奏なんだ。意図的に彼の実際の演奏とTrilianの音をミックスしたってことだね。

マーカスが演奏した音と、僕がTrilianを使ってキーボードで演奏する音(笑)、どっちも彼なんだ!たぶん、彼には違いがわかると思うけどね」

Music from the Heart

良い作品をつくろうと、向上心のあるミュージシャンに対して何かアドバイスできることがあるかと尋ねたところ、彼はこう答えてくれた。

「音楽は人間をひとつにする素晴らしいものだ。大事なことは、君の心が大切だと感じる、思うところを表現すること。他人などに流されず、自分の信念を貫き通す勇気を持つことだ。たとえ、自分自身の中に疑念が湧いてしまったとしても、君のハート、信念にしたがって動くことだよ!」

常に未来を見据える彼は、こう続ける。

「近くとりかかる、ソロ・プロジェクトが楽しみだね。KorgのOasysやSpectrasonicsのOmnisphere、Trilian、Stylus RMX、これらの機材で作る音楽は、とてもエキサイティングなものになりそうだよ」

原文リンク:http://www.spectrasonics.net/news/news-content.php?id=60


03 9月 11

サウンドデザイナーのトップが語る、今までとこれから。


スタッフHです。

世界中にサウンドデザイナーという肩書きを持つ人はたくさんいますが、そういった中でもトップに君臨し続けることは、非常に難しい事です。

しかしながら、その困難に果敢にも挑み続け、他社のサウンドデザイナーからも尊敬される存在となる人物。それが、本日ご紹介するSpectrasonicsの創業者であり、クリエイティブ・ディレイクター、サウンドデザイナーである、エリック・パーシング氏です。

エリック・パーシング氏はかつてRolandに所属し、現在なお名機と呼ばれる数多くのシンセサイザーを生み出してきました。その後、自身のアイデアをより理想的な形で世界に発信するために、Spectrasonicsを設立することになるのです。

そんな生きる伝説、エリック・パーシング氏のこれまでの遍歴と、これからの将来について米国ウェブサイトのKVRにてロングインタビューが公開されました。私たちはKVRスタッフに許可をいただき、本記事を和訳しました。

私たちにとって大事なツールである未来のソフトウェアはどう進化していくのか。音楽制作に携わる全ての人に読んで欲しい、長編インタビュー記事です。

Big thank you, Chris and all KVR staff for letting us post this article!


エリック・パーシング(Spectrasonics)インタビュー

記事/インタビュー:Chris Halaby(KVR Audio):翻訳:Media Integration Staff OK

およそあらゆる業界は常にチャンピオンを必要としている。個人、会社を問わず、マーケット全体を推進し、他の全ての人々が目指すべきハードルを常に引き上げていく存在を。

Spectrasoncisの創業者でありクリエイティブ・ディレクター、エリック・パーシング(Eric Persing)は、ソフトウェア・プラグイン/サウンド・デザイン業界における、そんなチャンピオンの一人だ。

音楽関連の製品に携わる多くの人々と同じく、エリックのキャリアは、ある楽器店からスタートした。しかし80年代初頭のMIDI誕生から間もなく、当時ローランドUSを率いていたTom Beckmenに見出され、彼はローランドで働き始める。(Tomはその後Opcode Systemsの株式を取得、引退した現在はなんとワイナリーを経営している)

当時の私は知らなかったが、私とエリックとの初めての出会いは、ローランドD-50の購入を通じてだった。彼はこの有名なシンセサイザーを始めとして、数多くのクラシック・シンセサイザーのサウンド・デザインを手がけていたのだ。その後、私の購入した殆どの製品は彼が開発に関わったものばかりだ。

私が最も頼りするインストゥルメントは、Spectrasonicsのフラッグシップ・プラグインOmnisphere、そしてTrilian、Stylus RMXだ。もしあなたがこれらを試したことがないとすれば、今まであなたは本当に重大なものを見逃してしまっているのだ、と言っておこう。


KVR:初めに、ローランドで働くことになった経緯を聞かせてもらえるかな。

1982年のこと、カリフォルニア州オレンジ郡にあった、当時としては相当普通じゃない、Goodman Musicという楽器店で働き始めた。この店のすごかったのは、世界に存在するあらゆるキーボード、シンセ、オルガン、ピアノを全て揃える、という野望を持っていたことだ!

でもおかしなことに、店舗は巨大で高速道路からでも見えるのに、たどり着くのにものすごく骨が折れたんだ。そんなわけで、残念なことに客はほとんどやってこなかった!

客が来なければ、することもない。なので僕らはすべての時間を使って、店中の機材で実験を繰り返した。MIDIが登場したばかりのすごくエキサイティングな時代だったから、店のあらゆるものをMIDIで繋ごうとしたんだ。でも当時はこうしたことさえ非常に複雑でね、その頃のMIDIキーボードの多くは、1チャンネルのMIDIしか送信できなかったんだ。にも関わらず、受信側は16チャンネル全てをオムニ・モードで受けてしまう。でもなんとか方法を見つけ出して、全機材が正しく動くように設定したんだよ。

店にいる間は昼夜を問わず、まるで開拓者みたいな気分だったな。全部の機材がMIDI接続され、巨大なPAにつながっている。客がやってくると、僕らは「ちょっとこっちにきてみなよ」と声をかけて、再生ボタンを押す、そうすると店中にあるシンセが唸りを上げて鳴り出すんだ。彼は「なんだこれ!」と驚くわけだ。

ちょうどその頃、Roland JX3Pが発売されて、収録されたファクトリー・パッチが、その……酷かったんだ…。funny catだのspace boyだの、80年代初めにありがちな、冴えないサウンド。そこで僕は独自にプリセットを作り始めた。JX3Pは2オシレータを搭載していたけれど、Prophet 5よりもはるかに安かったんだ。Prophet 5のサウンドを再現して、それを元にめちゃくちゃ凝ったパッチを32個作った。で、当時この店でJX3Pを買ってくれた人には、追加の100ドルで、この32パッチを収録したデータ・カセットも提供していたんだ (編集注:ちなみに現在Omnisphereには8000ものパッチが収録されている)。ほかにもいくつか裏技を見つけてね、例えばあるボタンの組み合わせでシーケンサーのメモリを2倍にできる、とか。インターネットのある今では考えられないけど、当時は20ドルでこうした裏技も教えていたんだよ(笑)。


ローランドS-50の発表、1986年あるとき、ローランドのセールス・トレーニング担当者が「これは、いったいどうやったんだい?」と尋ねてきて、結局彼にも仕組みを教えることになった!するとTom Beckman(ローランドUSの創業者)がこの事件を聞きつけたみたいで、「オレンジ郡の店で何が起きてるんだ?」と。で、彼が来店することになって、それはもう盛大なデモをやったんだ、さっき言ったJX3Pパッチも使ってね。最終的に、1984年のNAMMショウでデモを担当しないか、と誘われて…もうぶっ飛んだね!その年は新製品が山のように発表されたんだ。初のSMPTE-MIDIデバイスSBX-80、同じく初のMIDIドラムパッドOctapad、MIDIコントローラーにキーボード、モジュール、あとはSuper Jupiterとか。NAMMでの評判が良かったこともあって、ローランドのプロダクト・スペシャリスト兼ローランド・ジャパンのチーフ・サウンドデザイナー/コンサルタントとして働くことになったんだ。


KVR:今でもミスターK(梯 郁太郎氏、ローランド創業者)との親交はあるのかな?

梯 郁太郎氏とエリック・パーシング梯 郁太郎氏とエリック・パーシング

もちろん、折にふれて会うことがあるよ。彼は間違いなく僕のヒーローで、素晴らしい人物だ。”シンセサイザー界のウォルト・ディズニー”といって過言ではない。彼も80歳を超えているから、ぜひまた会う機会を得たいと思っているよ。


KVR:ではSpectrasonicsの歴史について話してもらえるかな。どうして自身で会社を始めようと思ったの?

90年代の初頭、僕はロスアンゼルスでセッション・ミュージシャン/プロデューサー/アレンジャーとしてすごく多忙な日々を送っていた。ローランド・ジャパンでもサンプル・ライブラリのレコーディングや開発を手がけていたしね。どちらの世界でも起こり始めた、ドラマチックな変革が明確になってきた頃だ。

音楽業界では、一緒に仕事をするミュージシャンやプロデューサーが、大勢の人間を一箇所に集めて音楽を作るかわりに、一人で作業をするようになっていった。日本では、ローランドの哲学が「バーチャル」なものにそれほど積極的ではないと、僕は気づき始めたんだ。彼らにとってサウンドはあくまでハードウェアに付属するものだった。ハードウェアのために工場を稼働させなくてはいけない、でもバーチャル・ソフトウェアを作るのに工場は必要なかった。
同じ頃、まだ小さかった「インターネット」なるものについて耳にするようになってね…(笑)

KVR:そう、あれはちょっとどころじゃない大変革だった!

こうした世界が互いにぶつかりあう中で、当時の僕はJV-1080の開発に携わっていたんだ。でも音楽プロデューサーにとって、僕を一日雇って何個かのカスタム・サウンドを作るより、僕が作った500以上のパッチを収録するローランド・シンセサイザーを買うほうが、格安というわけだ。自分自身を失業に追い込もうとしていることに気付かされたんだよ!

KVR:なんてこった!

と同時に、その頃「Bass Legends」サウンドライブラリのアイデアを温めていた。スタジオでの仕事を通じて、マーカス・ミラーや、エイブラハム・ラボリエル、ジョン・パチトゥッチといったベーシスト達と親交があったからね。

でもこのアイデアを実現するには、ローランドがベストな場所じゃないことは分かっていた。どうしていいか、くじけそうになった時、妻のLoreyが「ねえ、自分たちでやればいいわよ!」と背中を押してくれたんだ。こうしてSpectrasonicsは、ひっそりと始まったんだよ。

KVR:当時のSpectrasonicsはハードウェア・サンプラー用のサウンドを専門に制作していたよね。

そう。ハンス・ジマーを始めとする、本当に素晴らしいミュージシャンたちと仕事をする栄誉に恵まれた。おかげで、事実キッチンに引いた5回線の電話しかない小さな自営業にも関わらず、創立当初から、ハイ・プロファイルなプロ仕様のイメージをアピールすることができた。始まりは小さなアイデアに過ぎなかったものが、ここまで大きく成長してきたんだ。

KVR:Spectrasonicsは、最も早くからスケールの大きなバーチャル・インストゥルメントを発売したメーカーだ。サウンド制作からフルタイムのソフトウェア開発へと、どんな変遷があったのかな。

かなり初期の段階で、数多くあるサンプラーのプラットフォーム全てに対応することは、重荷になるだけでなく、アイデアの実現そのものを制限してしまうことは明らだった。僕らはコンピューターこそが未来だと信じ、その好奇心もあって、ソフトウェア・シンセサイザーの開発に取り組み始めたんだ。

しかし、僕自身ソフトウェア・プログラマーではないし、どうやってバーチャル・インストゥルメントを実現するべきかについて、具体的なアイデアもあまりなかった。Spectrasonics最初のインストゥルメント、Atmosphere、Trilogy、Stylusは、当時フランスでUVIエンジンの開発を行っていた友人からライセンスを受けた技術を使い、リリースされた。こうしたインストゥルメント製品の成功から、ソフトウェア会社とはどうあるべきか、学ぶことが多かったよ。

KVR:現在は全て自社で開発を行っているんだね。

現在のSpectrasonicsチームそうだ。最初のインストゥルメント製品群をリリースした後、アイデアを思うとおりに実現し、継続していくには、専門のソフトウェア・チームが必要だということがはっきりしたんだ。Glenn Olander(Crystalシンセサイザー開発者)をソフトウェア・チームのチーフに迎えられたことは、本当に幸運だった。その後のSpectrasonics製品は、すべて自社で開発したテクノロジーに移行した。Stylus RMXに搭載したS.A.G.E、そしてフラッグシップとなるOmnisphereとTrilianを駆動するSTEAMエンジンは、本当に強力なものだ。ここまで本当に大冒険の道のりだったよ!

KVR:Spectrasonicsの開発理念をふたつの言葉で表すとすれば、なんだろう。

“パワフルかつシンプル”。これが全てのデザイン理念におけるガイドラインだ。複雑で強力なツールを、本当に簡単に使える、創作意欲をかきたてるものにしたいんだよ。


KVR:ところで、いわゆる音楽教育を受けたことはあるかい。

もちろん、僕は音楽一家に育ったんだ。父はあらゆる楽器を演奏する。聖歌隊の監督や、スタンフォード大学でも教鞭を取っていたし、交響楽団で演奏もしていた。周りには常に音楽があって、ピアノを教えてくれたのは母だ。といっても、その他全てのことは独学で学んだよ。シンセサイザーについて言えば、70年代にはまだ新しい分野だったから、どのみち自分で勉強する必要があった。Alan Strangeの「Electronic Music: Systems, Techniques, and Controls」を子供の頃に手に入れて、それこそ本にあることは全て学んだ。本物のシンセを買えるようになる、はるか以前のことだよ。

当時、小学校6年だったと思う。サンフランシスコにあったGuitar Centerを訪れたんだ。当時はこの店舗ひとつきりで、しかもまだまだ小さかった。そこにはシンセサイザー専用のクールな部屋があって、Moog Modularが全部揃っていた。Sequential Circuits programmerの初期モデルもあったね。Prophet 5のはるか以前の話。ヘビーな部屋だったなあ。一日中Minimoogを演奏して、どうやってサウンドをオフにするかも分からなかった!

KVR:今のGuitar Centarからは想像もできないね。

(笑)まったく、でも一日中そこで過ごして、僕のDNAは永遠に書き換えられてしまったんだ。初めてシンセサイザーに触れたあの日以来、それ以外のことは考えられなくなってしまったよ。


KVR:よく聞く音楽は何だい、またそうした音楽は製品の開発に何らかの影響及ぼしているだろうか。

我ながら、音楽の趣味はそれこそ種々雑多だね。またそれが色々な意味で役立っている。Spectrasonicsのユーザーは、特に現在、スタイルやサウンド、分野も様々だからね。アコースティック、エレクトリック、エレクトロニック、とにかく幅広いスタイルに興味を持って好きになること、これが大きな助けになっている。

そうだな、ヴァンゲリスの影響は大きいね、あとクラフトワークやELP、ヤン・ハマー、イエス、ジェネシス、トーマス・ドルビー…みんなにも馴染み深いアーティストだね。あと当時でもそれほど有名ではなかったけど、とても重要なエレクトロニック・ミュージックの先人たち、ロジャー・パウウェルのソロ作品とか。最近では、音響が先鋭的で、かつ音楽的に破綻していないオリジナルなサウンドだったらどんなものでも好きだよ。アモン・トビン、スクエア・プッシャー、エイフェックス・ツイン、他にも現在進行形のエクスペリメンタルなもの。ポップ・ミュージックでは、イモージェン・ヒープのファンなんだ。彼女は素晴らしいね。

KVR:彼女はすごいね。特にFrou FrouでGuy Sigsworthと組んでいた曲とか。ところで、Moogを使った作品に絞ると、長年聞いた中で特に重要だと思う作品はあるかな。

一番最初に思いつくのは、ラリー・ファーストのSynergyが1978年にリリースしたアルバム「Cords」の「Phobos and Deimos Go To Mars」という曲かな。アルバムもすごくいい。

ラリーの作品、特にさっきの曲で、僕は初めてサンプル&ホールドが炸裂する、リッチなアナログ・サウンドを体験したんだ。でもELPのKarn Evil #9みたいなフィルターじゃない、モジュラー・シンセが火を吹くようにサウンドを発し、全てがランダムだ。OmnisphereのBob Moog Tribute Libraryにラリーが参加してくれたことは、大変な栄誉だった。彼が提供してくれたサウンドは、実際にアルバムで使用されたものだった。マルチトラック・マスターの手になる逸品だ。聞いてすぐに、これは「Games」で使われたサウンドだ!と気づいたくらいだ。

今の人達は知らないかもしれないけど、ラリー・ファーストは、ピーター・ガブリエルの作品にも深く関わっている。「Biko」のバグパイプを初め、数多くの印象深いサウンドを創りだした。バグパイプのサウンドはラリーがModular Moogで作ったものなんだ、本物じゃないんだよ!

あとはウェンディ・カルロス、音響的なボキャブラリーを推し広げたという意味で、彼女の貢献は計り知れない。

KVR:Spectrasonicsは、ユーザーと製品のインタラクティブな関わりをとても重視している。良くも悪くも、テクノロジーの変遷がユーザーの体験に与えてきた影響を、どう見ているかな。

ポジティブに考えれば、あらゆるものへのアクセスが容易になり、サイズも格段に小さくなって、どこにでも持ち運べるようになった。上手に使えば、思いついたことを何でも実現できる。素晴らしいクオリティと質感を備えたサウンドを、信じられないほど安価に手にすることができる、その進化にめまいがするほどだ。

障害となっていた壁は全て崩れ、無いも同然の状態だ。でもそれが別の興味深い問題として現れてくる。何もかもが努力を必要としないから、簡単に創作のモチベーションを失ってしまうんだ。ハードウェアシンセと巨大でコストの掛かるスタジオが全盛だった時代と違って、何かのiPadアプリを、いつの日か手にいれてやろう、なんて夢見る人はいない。すぐさまアプリを手に入れ、数日使ってみる、飽きたらまた別のものを試す。こうした使い捨ての問題が、誰も予想しえなかった音楽テクノロジーにおけるダークサイドだ。

Apple カメラ・コネクション・キット for iPad / iPhone

でも、たとえばiPadにMIDIを繋ごうとする人はまだ少ない。決して難しいことじゃないのに。今MIDIを試しているのは、実際のところ開発者がほとんどだ。エンドユーザーではあまり見かけない。そして見せてみると「え、そんなことができるのか?」という反応が返ってくる。

アップルが出しているカメラコネクション・キットとUSBケーブルで繋げることができる。もし「えー、僕のキーボードにはUSBなんて付いてないよ」なんて場合は、USB-MIDIの変換ケーブルを使えば、大した問題ではないんだ。どこの楽器屋でも売ってる(笑)。

こうした状況も、新しいデバイス、AlesisのIO Dockなどによって変わってくるかもしれないね。実は先日買ったばかりだけど。間違いなく今までの流れを変えるものだし、iPadをポータブル・マルチトラックレコーダー/サウンドモジュール/MIDIデバイスにすることができる。iPadの可能性を見過ごしてきた人にとって、大きな架け橋になると思う。

つまり、そう。間違いなく、良くも悪くもあらゆることが大きく変わった。

KVR:この変化はソフトウェア業界にどういった影響をおよぼすだろう。今はまるで新しい土地の奪い合いだ。NIみたいな大会社から、聞いたこともないソフトカンパニーまで。新しくて奇抜なものなら、ユーザーはとにかく買って試そうという…

いずれ落ち着いていくとは思うよ。既に飽和状態に達しているし、それはあっという間に起こったから。


KVR:今後(iOS向けのなどの)アプリ価格は、他の製品が参入することで上がっていくと思うかい?Omni-TRの開発にどれくらいかかったかは知らないけれど、少なくとも2〜3週間でできるものではないよね。

その年のかなりの期間を費やしている、でもOmni-TRについて、これでお金を稼ごうとは僕らは考えていないんだ。Omnisphereがもっと欲しくなるようなアプリだからね。Omni-TRは、Omnisphereをよりフィジカルに使うための可能性を開いたアプリだ。iPadのタッチ・リモート(TR)コンセプトに、僕らは相当興奮したんだ。間違いなく、今後もこのコンセプトを推し進めるつもりだよ。iPad/タブレットの世界がどうなるかは未知だけど、従来スタイルのコンピューターの方が常によりパワフルである、という事実は変わらないと思うんだ。それぞれの長所を活かすことで、どちらも賞賛に値するものになる。

Omni TR(タッチ・リモート)for iPad

僕が常に興味を持っているのは、新しいコンピューターを使うことで生まれる、音楽・音響の新たな可能性、その可能性がどんな風に僕らの開発環境を次のレベルへ引き上げてくれるか、といったことだ。マスマーケット向けのこじんまりした「ほかより使えない」製品を作ることではない。すでに大勢の人がそうしているし、中には素晴らしいものもあるけれど、多くのそうした製品は短命に終わってしまう。iPadの持つ根源的なアドバンテージは、素晴らしいインタラクティブ性を備えたタッチ・ユーザーインターフェースにあると思う。これでホスト・コンピューターが必要なパワーを提供できれば、両者のベストな特性を利用できるんだ。

業界的な話をすれば、AppleがGarageBand for iPadでやったことは本当にすごい…でも4.99ドルという価格は、あまりにクレイジーだよ。盛り込まれたアイデアはどれも素晴らしいし、ミュージシャンとしてはとても気に入っている。でもAppleがあまりに低価格に設定したことで、ある意味で多くの開発者のイノベーションを潰してしまっているんだ。20ドルじゃダメだったのかな?ときとして、あまりにもマス向けのやり方は、個人の開発者たちを抑圧してしまう。あんなにパワフルなDAWソフトがたったの5ドルだなんて、どうやって太刀打ちしたらいい?

KVR:全く同感だ、おかしいよね。あれを見て誰が次にiPadレコーディング・アプリを出そうと思うだろう。

彼らは「ハードルを上げるもの」といって発表したし、プログラミング的な観点からすると、まったくそのとおりだ。でも逆に価格のハードルを下げてしまった。ソフトウェアをまるで何でもないように扱うことは健全とは思えないし、これがどういう方向に向かうかは分からない。はっきりしているのは、iPadやそれに類するものは、今後スタジオでも大きな役割を担うだろうということだ。優れたインターフェースと持ち運びのしやすさがもたらす利点は大きい。

Studio Logic

音楽関連の製品でも、iPadを統合する動きが出てきているね。StudioLogicのMIDIコントローラーは、ディスプレイを省くことで価格を抑えた。もしディスプレイが欲しければ簡単だ、iPadをスライド固定すれば、全部のコントローラーがそこに表示される。iPadが楽器の一部、ディスプレイに取って代わる。

こうした場合、開発者は直接iPadアプリを販売して利益を得る必要がない。でも製品への付加価値はとてつもなく大きい。製品の規模が大きくなるほど、こうした傾向が顕著になってくるはずだ。

KVR:今後バーチャル・インストゥルメントのデザインと「タッチ操作」はどう関わっていくだろう。

最近、少なくない人たちから、もう音楽を作らなくなったので持っているインストゥルメント製品を処分したい、という話を聞くんだ。僕にしてみれば「待って、なんだって?もう音楽を作らないってどういうことだい?」だよ。しばらく音楽を作ってきて、ある時点から作らなくなる…これはミュージック・ソフトウェア業界全体にとって、とても危険な兆候だよ。人々は所有するインストゥルメントと、心のつながりを持てないでいる、ということだからね。

iPadの優れた点の一つが、インストゥルメントに直接「触れる」ということだ。そうするとことで何かが起こって、本物の楽器のように、より強いつながりが生まれてくるんだ。マウスでこの感覚を得ることは難しいよね。

音楽制作はかつてないほど簡単になったけれど、ときに選択肢が多すぎると、1万個もチャンネルがあると、全部がどうでもいいと感じてしまう。僕らがごく少数のパワフルな製品に集中するのは、そういった理由もあるからなんだ

KVR:DX7の音色数は32パッチ、カートリッジで拡張しても64パッチだ。選択肢の数に圧倒されて、人々の興味が離れてしまうこともありうるということだね。

まさに。Omnisphereにも同じことが起こった。音色ライブラリがあまりに巨大すぎる*。パッチの数に圧倒されることなく素早く作業ができるよう、ブラウザ機能の改良は常に課題になっている。

*訳者注: Omnisphereのプリセット・パッチ数は8000を超える

ミュージシャンとしての経験上、あとソフトウェア・プラグインを多用するようなエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーたちを見ていて気づいたことだけど、僕たちのような人間がハードウェア・シンセに魅せられてしまうのは、「そのとき限り」の瞬間を体験できるからだ。プリセットを保存できないハンズオンのアナログシンセ、Minimoogがまさにそうだし、例えばプリセットをプログラムできるJupiter 8でさえ、大規模なライブラリに頼ることはできない。Minimoogでは、今やっていることに必要な特定のサウンドを、その場で作ることになる。そこから生まれてくる相互作用は、とても美しいものだ。

こうしたプリセットを持たない楽器を、僕はなるべく大事に取っておくようにしている。その時の気分だったり、ある曲に必要になるサウンドだったり、必要に応じてその場で作っていく。そうすることで驚くほどの充足感を得られるんだ。Moogシンセサイザーを使う人々は、自分自身と楽器に、とてつもなく深いつながりを持っている。

ソフトウェア・シンセとこうした繋がりを持つことはとても難しい。このギャップを埋めるために、僕らは懸命に努力している。そういった意味でiPadは素晴らしいデバイスだ。新しいImposcar2のハードウェアコントローラーも同様にすごくエキサイティングだと思う。

でも、Omnisphereのようなインストゥルメントと繋がりを得るための近道は、ファクトリー・ライブラリーを全部無視して、とにかく触って、一からサウンドを創ってみることだよ!

KVR:ミュージシャンは自分の楽器を愛するべき、ということだね。

そのとおり!そうすれば、僕らが自分たちのインストゥルメントを同じように愛し、成長していくのを見ていたいと願っていることを、わかってもらえると思うんだ。これは単なるビジネスじゃない。500ドルのインストゥルメントは、今のご時世では高価な部類に入るだろう。僕らは最大限の努力を払って、その価値を保っていきたいと思っている。多くの人に、この楽器は価格に見合う素晴らしい価値がある、手に入れたくてたまらない、と感じてもらいたいんだ。趣味で音楽を作る人にとっても、手の届かない価格ではないよね。だから手にしてもらうための理由が少しでも多くなるよう、僕らは必死に頑張る。まあ、今までスタジオの機材一つに何千ドルも費やしてきたプロなら「もちろん!」と手にとってもらえるだろうけどね。


KVR:ボブ・モーグ財団(Bob Moog Foundation)とBob Moog Tribute Libraryについて話してもらえるかい。素晴らしい出来栄えだし、色々な意味で君にとってもすごく重要なライブラリ製品だと思うんだけど。

45名以上もの世界中のアーティスト/サウンドデザイナーからサウンドを提供してもらったからね。この素晴らしいライブラリの制作はすごい勢いで進んだんだ。ライブラリの利益は100%、次世代への教育を目的として、ボブ・モーグ財団に寄付されている。

Bob Moog Library

さっきも話したとおり、子供の頃に初めて弾いたMinimoogは、僕のDNAを完全に組み換えてしまったんだ。冗談抜きに、もしボブ・モーグと彼の創造力がなければ、Spectrrasonicsは存在しなかっただろう。次の世代の人々に、Spectrasonics製品がどうやって生まれてきたかを理解してもらい、何事にもオープンな姿勢をもつ、という彼のスピリットを広めることは、とても重要なことだと思う。ときどき、現在のエレクトロニック・ミュージシャンの多くが、ものすごく細分化され、閉じた世界で活動しているように見えてしまうんだ。これはボブ・ムーグの精神性と相反するものだ。実際、Fairlight(Moogシリーズの競合製品だった、非アナログのサンプリング・シンセ)はボブ・モーグ本人が発表し、コンピューターこそガット弦以来の大発明で、将来ミュージシャンにとって最も重要な楽器になるだろうと予言したんだ。彼は、ミュージシャンは利用できるものを何でも利用すべきと考えていた。ペダル・エフェクトを使う、アンプを使う、ハードウェアもソフトウェアも、そしてプラグインも…使えるものは全て!最も大切なことは、クリエイティブでいること、インスピレーションを持つことだ。ビジョンを実現するためなら、どんなものだろうと使うべきなんだよ。

KVR:私もライブラリを購入させてもらったけど、これはお世辞抜きで本当に素晴らしいね。

Bob Moog Tributeのライブラリがすごく成功して、結果としてボブ・モーグ財団にも驚くほど貢献できたことは、僕らにとっても非常に嬉しいことだ。こうした機会が他のメーカーや開発者を触発して、クリエイティブなやり方で、価値ある運動のための基金を募ってくれればいいと思う。

OMG-1あと、同時に開催したOMG-1もすごく好評だった、世界中から何百人もの応募がきてね!受賞者の発表は9月15日(2011年、OMG-1カスタムシンセ以外にも、複数の受賞が発表される予定)だから、これもすごく楽しみにしているよ!


KVR:最後の質問だけど、もし無人島に持っていくならどの機材を選ぶ?

1976年製のYAMAHA CS-80だね。素晴らしいシンセサイザーだし、演奏していて、とてもインスピレーションをかきたててくれる。さて、そうすると持ち運びできる発電機も探さなくちゃな…

YAMAHA CS-80

彼のヒーローであるボブ・モーグ氏と同じく、エリック・パーシングは、常にクリエイティビティをかきたてる製品を作りたいと語ってくれた。ほとんどのユーザーは、彼が非常に大きなスケールでそれを実現していることに賛同してくれるだろう。ぜひSpectrasonics Omnisphereと拡張音源Bob Moog Tribute Libraryをチェックしてみて欲しい。

当ポストの制作に協力してくれたPaul de Benedictisに謝辞を表する。

原文リンク
Interview with Eric Persing by Chris Halaby for KVR Audio.

—–
(c) KVR Audio Plugin Resources 2000-2011

Courtesy of KVR Audio Plugin Resources

当記事はKVR Audio Plugin Resourcesの許諾により転載しています。


私スタッフH自身もエリックさん、およびSpectrasonicsチームには何度かお会いしたことがあります。みなさん心から音楽と楽器が好きで、情熱をもって製品を生み出している方々ばかりです。

発売から数年で陳腐化してしまう製品は数多くあれど、Spectrasonics製品ほど長年にわたって第一線でありつづけるインストゥルメントが他にあるでしょうか(しかも、機能追加のアップデートのほとんどが「無償」。定期的にアップデート料金があるわけでもありません)。

Spectrasonicsチームは、使ってくださるユーザーのみなさまを大切にします。生涯の相棒として、Spectrasonics製品を選んでいただけると嬉しいです。

Spectrasonics 製品詳細ページ >>


21 6月 11

作曲家ジェイムス・ニュートン・ハワード、Spectrasonics製品と映画音楽を語る!


古くからSpectrasonic社製品を愛用し、数々の有名な賞を受賞する作曲家、ジェイムス・ニュートン・ハワード氏は、現代最高のフィルム・コンポーザーといっても過言ではありません。

オスカー・ノミネート8回、ゴールデングローブ・ノミネーション3回をはじめ、グラミー賞やエミー賞などを含めて100作以上の映画音楽を手がけ、ここ最近では、映画「グリーン・ホーネット」の音楽を担当しています。

このインタビューでは、ハワード氏がどのようにSpectrasonic社製品を作曲に活用しているかを語っていただきました。

「グリーン・ホーネット」の監督、ミシェル・ゴンドリー(「エターナル・サンシャイン」ほか)は画期的な制作手法を用いることでよく知られています。

ハワード氏によれば、監督は音楽を最優先に考え、映画制作のベクトルを正しい方向へ示してくれたそうです。

”スケジュールにもよるけど、テーマ曲を複数まとめて作曲することもあって、それが他の曲の土台になったりする。こうすることで一貫性も保てるし何より、スピードも上がるしね。”

これこそ、監督と作曲家の信頼関係がなせるワザなのでしょう。

”他にも、映画の中でキーポイントになるシーンを決めて感覚を掴んだよ。今回は映画の最初のシーンを選んだ。セス・ローガンというメイン・キャラクターにとって、とても印象的なシーンだったからね。

冒頭のシーンと他数シーンの音楽を仕上げて監督に持っていき、確認してもらった。僕達両方がしっかり同意の上で、先に進めたことが功を奏したね。”

”Spectrasonics社の製品は発売された当初からずっと使っている。テクスチャをつくるならOmnisphereを最初に使うし、Trillianの豊富な種類のベース音源には他に右にでるものがない。

「グリーン・ホーネット」の制作過程として、最初にサウンドのパレットを作っていった。OmnisphereのみReceptorでロードして、残りのプラグインはCubaseといった具合に。すぐに使いたい音が呼び出せるのがいいね。

僕のパレットには、パッド、テンポにシンクしたサウンド、パーカッション的なものなどを揃えている。ついでにいうと、パッドには未だにAtmosphereからの音色も活用しているよ。”

”Omnisphereの何がすごいって、デフォルトのパッチから自分好みにカスタムするのに、たった数回クリックするだけなんだ。”

”パッチを選んで、エンベロープを変えたり、ディレイやアルペジエイターで新しいパッチにしたとしよう。更に、オリジナリティを出すために豊富なエフェクトを活用すれば、リッチで深味のあるサウンドや、アグレッシブで緊張感のあるサウンドも作れる。それに、どんなパラメーターでもMIDIコントローラーでアサインできるから、もう一段上のレベルのダイナミクスを加えることもできるしね。

パレットを作っていく段階で少しスペースを空けておくと、全体を通して使うときや、場面だけに限って使う場合でも、後でパッチを追加するとき困らないですむ。

これはどんな音楽制作の課程でもよくあることだ。作曲していく課程で先が見えなくなることや、元のプランを調整しなきゃいけない場面が必ずある。音作りにおいても同じことだね。

”僕のパレットから絶対に外せないのが、Omnisphereだ。もちろん、Atmosphereがそうだったようにね。なんといっても、全ての要素を網羅するサウンドが簡単に使えてしかも自分好みにエディットできる。”

”「グリーン・ホーネット」のように、勢いのある動きがメインになる映画に使ったのが、アルペジエイターとテンポシンク・エフェクトだよ。こうした映画にはすごく便利なんだ。

ストリング・セクションと合わせて使えるパッドも、オーケストラのストリングスにレイヤーとして重ねることで、音に厚みを加えられる。

ギターのパッチなんかもいい例だね。例えば、Glorious Guitarsとか。素晴らしく豊かに感情を表現できるパッチの1つだ。”

”僕は曲のアイデアと編曲を、いつも同時進行させるプロセスで進めていく。エレクトロニックからオーケストラのモノ含めてね。こうした相反するサウンドは切っても切り離せない。両方を上手に扱う必要があると僕は思うね。

映画とのタイミングを図ったり、ミキシングもその場その場でやっていくことが、その両方のサウンドを映画にうまく溶けこませ、音楽を”シンクロ”させる唯一の方法だよ。

“映画音楽という仕事を受ける上で、できるだけ早く僕は音楽を仕上げたいと思っている。仮の音楽では映画作品の発する”声”がわかりにくいだろうからね。

たいていの場合、僕が持っていくシンセのデモは映画のプレビューで使われるけれど、映画製作の最終段階に使われるものと結果的にあまり変わらないことが多いからなんだ。”

“もちろん、「グリーン・ホーネット」のように力強いテーマ曲が必須な映画では、音楽が掛け値なしに重要になるわけだ。

本当にたくさんの種類のサウンド、オーケストラからシンセ、エレクトロニック、ギター、ドラム、ブラスまで、ふんだんに使用している。映画に合う音選びというのはその他の要素も含め、とても重要なことだ。これだけ多くの音が入ることで、散らかった印象を与えかねない。

アクションでありコメディでもあるこの映画では、様々な音楽的アプローチが必要になったけれど、同時に一体感も生み出さなければいけないんだ。

“制作の過程で、レコーディングが必要になった時はギター、ベース、ドラムのような小規模なものから始めることにしてる。その後にオーケストラのような大規模のレコーディングをすることで、監督が全ての音楽が映画と渾然一体となってることを、セッションを通じてリアルタイムに確認できるからね。”

ハワード氏が手がけた100を超える映画作品は、クラシックなものからポピュラーなものまで非常に幅広く、バットマン・ビギンズ、プリティ・ウーマン、逃亡者、ワイアット・アープ、ベスト・フレンズ・ウェディング、シックスセンス、コラテラル、The Devil’s Advocate、The Lookout、デイブ、フォーリング・ダウン、摩天楼を夢みて、アイ・アム・レジェンド、ヒマラヤ杉に降る雪、キング・コング、ブラッド・ダイヤモンド、プライマル・フィア、ザ・インタープリター、フレンチ・キッス、フィクサーなど様々な名作の音楽を担当しています。

最後に、彼のように偉大なフィルム・コンポーザーになる上で、必要な才能はあるかと尋ねてみたところ、

”僕は、スタジオの中で一番卓球がうまいんだよ”

とのこと。

ふむ…彼の成功の裏にはまだ少し秘密がありそうです。

原文リンク


20 5月 11

世界で活躍する日本人BFDユーザー


本日はFXPasnionのウェブサイトからの翻訳記事をお届け。世界を相手に活躍する日本人パーカッショニスト、Taku Hiranoさんのインタビュー記事です。

スティービー・ワンダー、ジョン・メイヤー、チャカ・カーン、宇多田ヒカルをはじめとした超ビックアーティストたちとの共演や、メルボルン交響楽団にも参加されたという素晴らしい活躍をするTaku Hiranoさんが「この太鼓のサウンドこそ、まさに本物の音」と評価したBFD2拡張音源、Japanese Taiko Percussionにコメントしています。

Taku Hiranoさんの音楽的なバックグラウンドも知ることができる貴重なインタビューです。お時間のあるときにゆっくりどうぞ。


Taku Hiranoのパフォーマンスは、あらゆる分野に及んでいる。スティービー・ワンダー、 ショーン・コムズ、ジョン・メイヤー、シャキーラ、 メアリー・J・ブライジ、 ジョッシュ・グローバン、リアン・ライムス、 パティ・ラベル、 バリー・マニロウ、 ケニー・ロギンス、 チャカ・カーン、ブランディ、 ネヴィル・ブラザース、 ワイクリフ・ジョン、 ドン・ヘンリー、 トラヴィス・トリット、 シーラ・E.、 ジョー・ザヴィヌル、 ゲイリー・バートン、 ヨランダ・アダムス、 シーシー・ワイナンズ、アン・トリオ、 アルビン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター、 そしてメルボルン交響楽団と、数々の著名アーティストのコンサート演奏にパーカッショニストとして参加している。

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