今回は前回のHLS Channelに引き続きWAVESから発売されたばかりの Eddie Kramer PIE Compressor に関してです。
PIE Compressor と HLS Channel に関しては Waves Inside Tracks: HLS Channel&PIE Compressor 開発者インタビュー で興味深い開発中のエピソードなどを読む事が出来るのはとてもタイムリーな感じです。インタビューを読んでからは尚更PIEとHLSに愛着が湧いてくる感じがしました。なにせEddie Kramerが出音をきちんと確認してくれているのだから、今までのように設計開発者がデジタル・プログラマーの腕と動作的理論値だけでPlug-Insを完成させたのとは訳が違うという事です。
私が書く内容は今回も実際に使用した中での印象などを具体的に書かせていただきます。
出音に関して言葉を羅列するより解りやすいところで、AmpliTube3を使用したデモ・セッションのミキシングに PIE Compressor を追加して、どのようにサウンドが変化したのかを聴いてもらいながら、PIE Compressor のありがたき部分などもいくつか記述します。
まず、PIEはHLS同様に、実機のもつS/Nまでも大切に愛情を持ってモデリングされていて、PIE Compressorでもオーディオ上に機材のS/Nが加算されています。でも、オリンピック・スタジオで作業すれば必ずつきまとうサウンドなので、この際そんな事は気にしていませんでした。S/N部分が気になる人は、ANALOGというスイッチをOFFにすればS/Nからは解放されるので、完全デジタル志向ノイズ・レスでトラック・メイキングしたい人にはOFFという選択肢が用意されている辺りはWAVESらしい感じです。
音色変化などの参考用に「オリジナル」「AmpliTube3のみ」「AmpliTube3+PIE Compressor」という状態のMP3を参考にしてみて下さい。
【ベース / オリジナル】
【ベース / AmpliTube3のみ使用】
【ベース / AmpliTube3+PIE Compressorを使用】
WAVESからリリースされたばかりのPlug-Insで、Eddie Kramerが監修で参加している HLS Channel / PIE Compressor をMedia Integration様のご厚意により試用させてもらいました。今回の投稿ではHLS Channel(H/AとEqualizerユニット)の方をとりあげます。
この2種類は既にリリースされているSignature Seriesの The Eddie Kramer Collection はEddie Kramerの方針で各楽器に対して処理するプロセスを対象音源毎にひとまとめにした物ですが、それとは異なり、WAVESのページでも説明書きがあるように、ロンドンのオリンピック・スタジオに導入されていたHelios Mixing Consoleのモジュール部分をEddie Kramer監修の元、忠実にモデリングされたPlug-Insとなっていて、Abbey Road Plug-Ins同様にユーザー・インターフェースのデザインも音処理の質感同様に現物そのまま・・・という志向になっているところがたまりません。
因みにWAVESのページにも記載がありますが、オリンピック・スタジオではBeatlesが1967年に「Baby You’re A Rich Man」のレコーディング・セッションで使われたり、Jimi Hendrix、Led Zeppelin など錚々たるミュージシャンのレコーディングで、Eddie Kramer自身が参加した事でも記憶に残るスタジオになっていて、Helios Mixing Consoleでセッションを行っていたEddie Kramerが監修という事で、なんともありがたい事になっています。
Jimi Hendrixの新譜として未発表音源がリリースされましたが、こちらの方もHLS ChannelとPIE Compressorが駆使されたのかな?・・・逆にこのMixingの為にWAVESで開発したのかな?・・・と思える時期のリリースとなった事は単なる偶然ではないような気もしています。
まずはユーザー・インターフェースのデザインですが、メーターやフェーダー付近の腐食までもデザインに採り入れられたFender Custom Shopと同類のデザインがイイです。
EQのポイントは API 550A 同様に、限定された周波数に対する増減ですが、私の場合は細かく周波数をスライドさせて効くポイントを探すよりも、このように固定ポイントで必要なところだけイコライジングするタイプの方がサクサクと作業できるので好んで使っています。
BASSに関してはブーストかカットのどちらか一方しか操作できないため、その部分だけはちょっと使いづらい感じですが、BASSの各周波数でブーストした感じがHeliosの特徴なのか、もたつくことなくブーミーにもならず、どんどん太くなってくるので、PULTECのEQP-1A3同様にありがたいBASSのEQな感じです。
TREBLEに関しては10KHzで、SSL G Seriesのx3 モードやGMLなどを使い慣れた人にとっては12KHz〜16KHzを選択できないので物足りなさを感じるかも知れませんが、10KHz以上の帯域にかけても持ち上がってくるので、私にはなにも気になる部分はありませんでした。
10年くらい前のPlug-Insでは通してもサウンドに対して変化を起こせなかった?もしくは変化させる事が良くない事だと思っていたのか?、とにかくどのPlug-Insを使ってもサウンド作りには役立たない代物だらけだったんですが、ここ数年のPlug-Insにおける傾向は、ビンテージ機器の特性を含めて通したときのサウンドや変化の仕方を忠実にモデリングしている物が主流になってきたので、入手不可能または高価すぎて冒険したくないビンテージ機器も安心して数万円単位で使えるメリットを強く感じています。コンピューターのCPUを酷使するところを捉えても、いかに回路全体の反応を事細かくモデリングしていることが解ります。
このPlug-Insのユニークなところは、Helios Mixing ConsoleのS/N(サウンド・パー・ノイズ = 要するにどんだけノイズが乗っかっているか)までもPlug-Ins内で加算する事が出来るため、すっきりし過ぎて寂しい・・・と感じたときなど、ほんの少しノイズ・フロアを足してやるとSynth PADのようにある種のPAD的役割も担ってくれるので、状況的にいつか使ってみようとは思っています。
このConsoleに乗っかっているS/NをPlug-Ins内で足すには、左列最上段の「PREAMP」というつまみを20〜70の方にあげてゆくとどんどんConsoleに含まれているノイズ成分が加算されてくるので、アナログ・コンソールやアナログ回路を使用したレコーディングのリアリティを出したいときには重宝しそうな「おまけ機能」となっています。PREAMPのつまみの位置を70にしたときのノイズ・フロアは流石に凄いですが・・・
HLSとPIEにおいて開発者及びデザイナーの執着心を感じたのは、周波数を切り替えたり、何かのつまみを切り替えると一瞬音が途切れてしまって、メーター上でも同様にガクンと動いてしまうんですが、この辺りはアナログ機器を使っていれば当たり前の接点切り替わり時の現象・・・この事までもPlug-Insで忠実に再現している辺りに、愛情すら感じてしまいました。
AmpliTube3に念願のAcousutic 360が登場したりと、私にとって最上のアナログ機器がどんどんデジタル・モデリング化されて増えてくるのはありがたい事だらけです。
半年もインターバルが開いてしまいましたが、気が付くとお盆も過ぎて残暑見舞いの時期となり、暑いけどもう秋へ向かっている感じですね・・・みなさん夏バテなどせず過ごしていらっしゃるでしょうか?
ところで、WAVESから「Tony Maserati Collection」に続き、待望の「Eddie Kramer Collection」が出ましたね・・・
当時のBEATLESはEMI London Studios(= Abbey Road Studios)の録音機材がコンサバすぎて、なかなか新しいマルチトラック・レコーダーや周辺機器が導入されなかった背景から、そして当時最先端だった外部スタジオに出向く事を希望してGeorge Martin引率の元Olympic Studiosへ出向いたわけですが、EMIの社内規定により外部スタジオへEngineerが出向いてレコーディングを行う事が出来なかった?・・・正確なところはGeoff Emerickの本による記載しかないので定かではありませんが、BEATLESにとってもJimi HendrixやRolling Stonesのレコーディングで使用されていたスタジオと言う事で、何かしらの化学反応を期待していたような気がしています。
1982年にヤマハ渋谷店でキャリアをスタート、1985年のStudio TWO TWO ONE 設立と共にエンジニアとして参加。その後Z’sへ参加し1990年よりフリーランスに転身。(Twitter ID = JacoTen2)
プロフィール全文を読む月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|
« Dec | ||||||
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |